インソース執行役員・井東が語る(9)

在庫の意味を考えよう

私は10年ほど前、アパレル企業で小売部門の建て直しに携わっていました。
当時の店舗数は25店舗、売上が35億円、営業利益が50百万円の赤字、在庫評価損を含めると、3億円の赤字に陥っていました。

赤字転落の要因は、当時山一証券、北海道拓殖銀行などの大手金融機関が倒産した後、景気が急速に悪化し、消費が大きく冷え込んだことで、売上が大幅に減少したことでした。

そこで、まず行ったことは、当社の収益構造のチェックでした。
そこで分かったことは、在庫回転期間(期末在庫÷平均月商)が2.2ヶ月もあったことです。
上場同業他社の在庫回転期間が1.0~1.5か月でしたので、明らかに在庫水準が高すぎました。(結果は、1年かけて在庫水準を改善し、黒字化させました。)

在庫水準が高かった要因は、表面的には、売上が上がらずに、仕入れた商品が残ってしまったことだったのですが、調査して分かったことは、そもそも仕入計画も持たずに、バイヤーが好き勝手に仕入れていたことでした。
売上が順調に上がっていれば、「結果的に」在庫も残らないのでしょうが、計画も持たずに仕入れを行うこと自体、バクチを打っていることと何ら変わりません。経営とはとても言えません。

卑近な例を挙げると、10年ほど前にバンダイも、「たまごっち」で同様の失敗を犯しています。
当時は「たまごっち」が大ヒットしており、バンダイの業績も非常に好調でした。
しかし、たまごっちブームが去った後の決算では、60億円もの在庫を残したため、多額の在庫評価損を計上し、大赤字に陥ってしまいました。これは、ブームの終焉を読み誤って、商品を製造しすぎたことが要因でした。

また最近では、不動産会社が多額の在庫評価損を計上し、債務超過に陥ったり、倒産する会社まで続出していることは、周知の通りです。
不動産会社は概して、自己資本が薄く、多額の有利子負債と在庫を有して商売しています。
不動産市況が良い時には、金融機関から融資を受けやすいのですが、一旦景気が悪くなり、不動産市況が悪化すると、金融機関が融資を引き締めます。
そうなると、不動産会社は途端に資金繰りが回らなくなり、黒字であっても資金繰り倒産を起こしてしまうのです。

このように、過剰な在庫を持つことは、経営上非常に危険なことです。
確かにマーケットの読みは難しいのですが、その読みの誤差を最小限に抑えて、「適正在庫」を保つことも経営上重要なポイントの一つです。

それでは改めて、在庫の意味を考えてみたいと思います。

在庫とは、当り前のことですが、商品・製品・原材料・貯蔵品などの科目でバランスシートに計上される「資産」です。
これは、商売を成立させ、会社を発展させるために必要不可なもので、良い商品を揃え、お客さまに喜ばれることが大切なことは、今更言う必要がないと思います。「財庫」と言い換えても差し支えないと思います。

一方、在庫は、お金を支払って仕入れている、あるいは製造している以上、モノに成り代わった「カネ」であるとも言えます。
つまり、在庫は、「資産」であると同時に、「コスト」でもある訳です。

それでは、在庫を多く持ち過ぎると、なぜいけないのでしょか?

1.キャッシュフローを悪くします。
最悪の場合は、キャッシュフローが回らなくなります。

2.余った在庫の値引き販売により、粗利益などの利益を下げてしまいます。

3.支払代金以外に様々なコストがかかってきます。
例えば、倉庫代、物流費、商品保険代、滞留金利、LC手数料(商品を輸入する際に、銀行から信用保証状を発行してもらう手数料)、棚卸コスト(目に見えないコスト)などが挙げられます。

つまり、過剰在庫によって、「利益・キャッシュフロー」を悪化させ、経営の根幹を揺るがす事態にまで発展してしまうことすらあります。この場合はまさに、在庫が「罪庫」となっています。

在庫で留意しなければならないのは、在庫の「市場価値」です。
どんな在庫でも基本的には、仕入れてから(製造してから)1年以上販売できていない在庫は、「市場価値」が相当劣化しています。
「モノが腐らない以上、いつでも販売できるから、価値は変わらない。」という言い分もあるでしょうが、これは大きな誤りです。

アパレル企業であれば、シーズン終了後(仕入れてから半年後)には、正規の値段では売れませんし、飲食店やスーパーのように生鮮食品を扱っている会社は、非常に短い期間しか商品が持たず、すぐに廃棄処分になってしまうなど、商品鮮度が1年よりずっと短いケースも多々あります。

以上のことから、バランスシートの在庫についても、在庫の「市場価値」に応じた評価替えを行うべきですし、在庫評価基準を作成して、常に厳格な在庫評価を行うように心がけるべきです。これは上場企業に限ったことではなく、中小企業でも同様です。

もう一つ大切なことは、在庫の意味とその功罪については、経営陣や幹部社員だけが分かっていれば良いのではなく、現場の人たちにも徹底して、全社一丸となって取り組む必要があるということです。

現場の人たちの中には、ただ売上を上げれば良いという意識だけで、在庫を残すことがどれほど危険なことであるか、また、適正在庫がどのくらいの水準なのかを知らない人が多くいますが、これではいけません。

在庫については、経営トップから末端社員に至るまで、全社員が細心の注意を払って、日々の経営にあたって頂きたいと考える次第です。

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