インソース執行役員・井東が語る(11)
2009年10月29日

ROE、ROA

執筆者: WEBインソース編集部

株主重視の経営とROE

アメリカ型の株主重視の経営が持てはやされるようになって、10年近く経ったのでしょうか。
1990年代の終わり頃は、山一證券や拓銀、長銀など大手金融機関が破綻して、景気悪化に伴う企業業績の悪化や企業倒産の増加、金融機関の不良債権の増加、不動産価格の下落などの現象が顕著になりました。

その頃から、海外の資金が日本企業の株式や不動産に流入し、属に言う「ハゲタカ」が日本を「買い叩く」という批判さえ起こりました。
株主になった海外投資家が、「会社は株主のものである。」とか、「株主の利益を最大化せよ。」と言って、会社に対して様々な要求を行うようになり、ホリエモンや村上ファンドが現れて、企業買収を精力的に行うようになってから、「株主重視の経営」という言葉が定着したように思います。

多くの企業が「株主重視の経営」を唱えるようになってからというもの、
「ROE」(Return On Equity/株主資本利益率=利益÷純資産)を重視する経営指標として掲げるようになりました。

確かにROEを高めることによって、株主利益は増大するのですが、これはあくまで株主利益を高めることであって、企業の財務内容を良くすることとは違います。
かえって、財務の安全性を損ねることにもつながってしまう危険な指標であると、私は考えています。

理由は以下の通りです。

ROE=ROA×財務レバレッジ
   =(利益÷総資産)×(総資産÷純資産)
   =利益÷純資産

つまり、ROEは、ROAと財務レバレッジの掛け算で求められ、財務レバレッジを高めるとROEは改善されることになります。(ちなみに、ROAとは、総資産利益率のことです。)

財務レバレッジは、資産÷純資産で求められ、これは自己資本比率の逆であることから、財務レバレッジが高まることは、自己資本比率が悪化することになります。

自己資本比率は財務の安全性を図る非常に重要な指標ですが、この指標を損ねてまでROEを高めるとしたら、本末転倒に他なりません。

具体的な数字でもって考えてみましょう。

1総資産:100、純資産:40、負債:60、利益:5
2総資産:100、純資産:10、負債:90、利益:5

1の場合:ROE=5÷40=12.5%、
         自己資本比率=40÷100=40%
2の場合:ROE=5÷10=50.0%、
         自己資本比率=10÷100=10%

ROEで比較すると、2のほうが4倍良いのですが、自己資本比率で見ると、2の場合はわずか10%しかなく、かなり低水準であると言えます。

株主にとってみれば、2のほうが有り難いでしょうが、財務の健全性から言えば、1のほうがずっと良い訳です。

企業経営は長期にわたって健全性を維持することが重要なのに、株主のための短期の収益を追い求めるあまり、かえって不健全な経営を助長することになりかねないのです。

この典型的な例が、不動産業界であります。
不動産業界は概して、自己資本比率が低く、銀行などからの有利子負債に頼った経営をしています。

不動産市況が良い時には、銀行が積極的に融資をしてくれるので問題はないのでしょうが、銀行融資がストップした途端に、資金繰りが回らなくなり、経営が一気に苦しくなります。

以上のことから、一定以上の自己資本比率を保っている会社以外は、
ROEを最大化する経営を目指すべきではなく、ROEを高めるなら、ROAを高めるほうがよっぽど健全ではないかと考えます。

企業には、従業員、取引先、株主、金融機関、地域社会など、様々なステークホルダー(利害関係者)が存在します。

極端に株主を重視する欧米型経営よりも、ステークホルダーに対して
調和の取れた責任を果たす経営を目指すべきではないでしょうか。

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