2010年9月30日

遅ればせながら平城遷都1300年特集コラム(3)奈良時代にもプロジェクト管理があった!!

執筆者: インソース企画開発部 小林洋介

今回は、写経事業をとりあげて、奈良時代のプロジェクト管理の方法を紹介したいと思います。

奈良時代の国家プロジェクト

写経といえば、現在は書に親しむ趣味として人気がありますが、奈良時代の場合は、聖武天皇が「鎮護国家」(仏教の力で国を守る)のために、全国66国に築いた「国分寺(男性僧の寺)・「国分尼寺」(女性僧=尼の寺)において、国家守護の経典を僧尼に読ませるために、経典を大量生産する必要がありました。(現在はコピー機で簡単に同じものを大量に複写できますが、奈良時代では筆で一字一字書き写してコピーを作っていました。)

東大寺の正倉院には、この大写経事業を管理するために作成された帳簿がたくさん残っています。

ちなみに、この帳簿は、当時は紙が貴重だったこともあり、戸籍や正税帳(諸国の決算報告)などの公文書の裏に記されています。現在、奈良時代の戸籍などの公文書が現存しているのは、戸籍が保存される目的で残されたわけではなく、写経の帳簿を残す必要があったために、その裏の公文書も残ったというわけです。(スーパーのチラシの裏の白地に重要なメモ書きをしたため、表のチラシの内容はともかく、そのチラシを保存するように。)

 

写経事業の仕事の流れ

1.写経する材料集め(筆・墨・紙など)

写経事業を行なうためには、紙にお経を書くための筆・墨・紙などが必要ですが、まず、それらの物資がどのくらい必要なのかを見積る書類がつくられます。(「用度申請解」、ようどしんせいげ、「解」は上申文書の意味)

写経の発願主は、写経を行なう役所=「写経所」の請求を受け、筆・墨・紙などの写経に必要な物資を送るか、またはその代金の銭貨を収めます。これは、ビジネスでいえば、予算の見積りに当たります。現在と同じく、見積りが甘かった場合もあったようで、その時には、材料や代金を発願主に別途支給しています。(昔も甘い見積もりでトラブルが絶えなかったかもしれません。)

 

2.写経する元テキストを集める

次に、写す元となるお経を借りる必要があります。50人ぐらいの人間が一度に写経するので、そのテキストとなるお経もたくさん集めなければなりませんでした。

お経は、お寺や役所・貴族宅などで所有されていましたが、お経はたくさん必要なので、一つの所からだけではなく、様々な所から、お経を集めなければなりませんでした。

そうした借りる必要があるお経の総数とその所蔵先の情報なども「充本帳」(じゅうほんちょう)という帳簿がつくられまとめられていました。

 

3.集めた筆・墨・紙と元テキストを経師に支給

集めた筆・墨・紙とテキストとなるお経は、実際に写経を行なう経師(きょうし)に支給されます。

その際も、50人ぐらいいる経師に、「どれだけの巻数を写経させるか」、また、一人ひとりの経師に「筆・墨・紙がどれぐらい必要なのか」についても、「充紙筆墨帳」(じゅうしひつぼくちょう)という帳簿がつくられ、しっかりと管理されました。

先ほど説明した、借りる必要があるテキストをまとめた帳簿=「充本帳」と、この「充紙筆墨帳」は、「案主」(あんず)と呼ばれる、写経の事務責任者(=プロジェクトマネージャー)が、全体の作業工程を見通して、帳簿で物品を管理しました。

 

4.紙を巻物に仕立てる

さて、経師がお経を書写する紙は、写経所に納入される際は1枚ごとですが、(紙の長さ:縦1尺=30センチ、横2尺60センチぐらい)写すお経の文字は膨大にありますので、写す際には、1枚1枚の紙ではなく、それらを貼り継いで巻物状に仕立てる必要がありました。

この巻物に仕立てるまでの作業は、
「継」(けい):紙を貼り継ぐ
「打」(だ):紙を叩くことで、紙の繊維をほぐしてツヤを増し、墨が滲むのを防ぐ
「界」(かい):罫線を入れる、という3つの工程がありました。

 

5.経師による写経

経師は、1日に速い人で6千字ぐらいの文字を写経しました(平均3,500字)。

経師への給料(布施)は、時間給ではなく、出来高払いで、「布」が与えられました。(「布」は諸国から「調」という税金で集められたもので、経師は都の市で、これをお金に換金しました。)

ただ、やみくもに多く写経しても、誤字・脱字・脱行などがあれば、ペナルティーが課され、給料から差し引かれました。誤字・脱字などのチェック(校正)は、「校生」(こうしょう)と呼ばれる人たちによって、初校と再校の2度行われましたが、その際には、写経したお経のどの部分が何文字間違えている(何行抜けている)という細かいチェックとその結果をまとめた帳簿=(「勘出帳」、「勘出」=調べて抽出する)が作成されました。(ダブルチェックも奈良時代からありました。)「校生」たちも、「経師」が書き誤ったものを見落とすと、彼らと同様に、その量に応じて、給料からマイナスされました。

このように「経師」と「校生」に、ペナルティーを課し、緊張感を与えることで、作業の正確性が期され、品質管理が行われていました。

また、写経したお経のどれが、未校正か校正済みかということについても、先ほどご説明した「案主」というプロジェクトマネージャーによって「校帳」という帳簿で把握され、校正作業の割り振りが正確に行われました。

 

こうした、綿密な計画と厳密な作業管理、そして経師の血の滲むような作業によって、良質の経典が大量にコピー生産されたわけですが、これらの経典は「鎮護国家」(仏教の力により国を守る)のために、全国の国分寺・国分尼寺の僧尼によって、読経されました。

 

奈良時代から学ぶ仕事のプロジェクト管理

全体の見積りや、ミスを防ぐ品質管理、作業工程ごとに作成される文書(帳簿)の作成など、現在のビジネスのプロジェクトにみられる仕事の進め方(段取り)の原型は、すでに1,300年前から存在していました。

 

コンピュータもなく、ほぼ文字だけがテクノロジーというの中でよくこれだけのプロジェクト管理ができたと思います。現代でも学ぶこと多しではないでしょうか。

 

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